第1回対談
-Guest-

自家焙煎工房 珈琲豆蔵
代表 江口 一成
味覚の世界はこんなにも幅広く、奥が深いものなんだってことをお客さんにも知っていってほしい

江口:うちの店は品種で選ぶって言うスタンスじゃないんです。
自分の中にテーマがあって、それに合うものを吟味してお客さんに提供しています。
宣伝文句が「おいしいから」「〜産だから」じゃなくて、自分の味覚で確かめて本当に納得しないと置かない。どんなに高くて高級だと言われても、自分のセンサーに触れなければ買わないです。
コーヒーの味は見かけでは判断できない。コーヒーは苦み、甘み、酸味という要素がある。
きちんとしたものを飲もうと思ったらお客さんも「味覚の世界はこんなに幅広く、奥が深いものなんだ」ってことを知っていってほしいと思います。

奥山:うん、味を探求することのおもしろさ、楽しさがわかってくると、同じ値段でも味がわかる方が得ですよね。
人の味覚は本当に千差万別です。
コーヒーもそうだし、ケーキもそうなんですが、知れば知るほど全然味が違って感じるようになる。

江口:こういう味がして、こういう香味で、こういう後口で、っていうのが「なるほどな!」ってわかるようになってきます。

奥山:コーヒーにしても、ケーキ、お寿司、ワインにしてもおもしろいってわかってくれるお客さんにはもっといいものがあるよって紹介したくなりますよね。
いろんな入口があっていいと思うんですけど。

今は何でもスピード重視になってしまっていると思うんですよ。コンビニに行けば24時間すぐに食べられるものが買える。でも朝、じっくり一杯のコーヒーを入れて飲むことや、前の日に仕込んでおいたものを次の日子どものおやつにするとか、そういうことを忘れて早く口に入るものばかり選びがちな気がするんです。

(江口さんがコーヒーを持ってくる)
江口:これは「イルガチェッフェ」。モカコーヒーっていうのは商品名であってそれ以外の何ものでもないんですよね。産地も栽培方法も表さないし、香味は安定しないし。
でも現地に行って調べてみると、その産地ごとでちゃんとしたものがある。だから「うちのモカはこれですよ」って言って出すんです。

自分の身を守るための味覚を身につけるということ

江口:今、いろんな食品の問題がありますよね。買ってくれるお客さんに必要な情報を出してないわけですよ。トレーサビリティ(生産の履歴)もサスティナビリティ(持続可能性)もない。で、お客さんが「まずい」って言うと「入れ方が悪い」って言われてしまう。
でもそれは売る側にも、買う側にも責任があると思うんです。買う側もきちっとした情報を求めないから。
広告でも謳い文句だけが聞こえがいいように使われていて、必要な情報が入っていないんですよね。
だから、うちはしっかりそういう説明はします。
そうすると自分の店のコンセプトが大事になってくるわけなんですね。
インターネットで豆を検索するとみんなスペシャリティで売ってる。でも、それは実はもともとの品種が悪くて豆の持つ味が全然しないっていう場合もあります。
だから私は確定された品種を飲んで、それで香りがあるかないか確かめて良ければ買います。

コーヒーを飲む人の人口を考えると、豆が足りないから必然的に品質の悪い物が出回る。豆って果実だから、実の完熟度によっても豆の味が変わってくるんです。
しっかり完熟した豆を摘むとその瞬間から発酵がはじまるから、スピードも重要なんです。

品質は農園の生産能力でも大きく左右される。
未完塾の豆を日を追って精製したりしたものも出回っていますが、そういうのは薬みたいな変な味がする。
自分たちがコーヒーの味だと思っているのはもしかしたらそうじゃないかもしれない。大多数のお店はそこまで善し悪しにこだわらないからね。

あとコーヒーにもワインと同じでその年の出来が当然ある。
コーヒー豆もお米と同じでやっぱり新米がおいしいんです。
年数が経つと値段も落ちていく。だから今年出来た豆と去年の豆をブレンドしてる場合なんてこともあります。でもそれはパッケージには書いていない。
だから、きちんと、おいしいものを食べるための味覚と、それからやっぱり勉強して自分の身を守るための味覚を身につけたらいいんじゃないのかな?
だからそうなっていくと、物を買うときにその店の姿勢だとか、売る側と買う側の勉強は今後一層必要になってきますよね。
おいしいものを追求していくことと、自分の身を守ることと、あとは子孫のことを考えると、将来ずっと先に影響が出てくるかもしれない。
信用できる人を見つけてお客様に勉強してもらって、いつか安心してコーヒーを飲みわけられる時代が来ればいいなと思います。

子ども達の味覚の成長を奪っているのは実は大人?

奥山:それから私たちの時代は、子供の頃「大人になったらこれが食べたい!」っていうのがあったんですよね。でも今の子ども達は誰でもお寿司とか当たり前に食べられちゃいますよね。
今の子ども達があまりにも恵まれすぎてるのは、「うなぎ」でも安い物から高い物まであって、じゃあこの安いものは何なんだろうってなりますよね。
だから有る程度のものは値段が張っても良いと思うんですよね。
小さい頃からうなぎや寿司を食べてるってことはあこがれがなくなるってことなんですよね。あこがれがなくなるってことは、逆に言うといいものも流通しなくなるってこと。

一部の裕福な人たちが本当においしいものを食べているけど、実はその人たちは味を知らない。
すごく矛盾してるんだけど、大金持ちになって高い料亭に行っても、お店の人が出した物は、実は本当においしいものじゃないかもしれない。本当においしいものは味のわかる人に出したいから。
小さい頃からあこがれを持ち続けていれば、本当においしいもの、安全なもの、料理人がわかる人に提供したいと思うものを手に入れることが出来ると思うんです。

租借して噛んで、味をかみしめるってことができなくなってる。そうするとやっぱりおいしいものとまずいものの区別がつかなくなる。

私はキャラクターケーキを作らないんです。おもちゃはおもちゃ、ケーキはケーキにしたい。おもちゃはもらって「うれしい」ケーキはもらって「おいしい」と思ってもらうことが大人の役目なんじゃないかと思うんです。

こどものあこがれ、たのしさ、わくわく感を奪っているのは実は大人なんじゃないかと思うんです。

ヨーロッパではコーヒーは味覚がわかるような年齢になるまでは飲ませないんです。だから子供は「大人のようにあれが飲めるようになりたい」って思う。素敵なお姉さんがコーヒーを飲んでいる姿に憧れたりしてね。

江口:赤ちゃんは産まれてきたときに知識じゃなく、生理機能的に甘いのは安全、苦いは危ないって感じる。
でも味覚が成長していくと苦みや酸味、旨みにもいろいろあることがわかってくる。
俺、昔親父が飲んでたビールを、美味そうに飲むからどんなに甘くておいしいんだろうな〜と思って、飲んでみたらね、「なんだこれ〜!なんでこんな苦いのを美味そうに飲んで!」と思ったね(笑)。
だから、味覚が成長していって、いろんな味の区別がつくようになって、きちっと整理されていくことが大事なんですよね。
コーヒーに関して言えばね、「高いからうまい」ってことはない、でも「安いからOK」ってこともないんです。
だって納得して払いたいでしょ。食べ物もいいものはいい、悪い物は悪いって整理されたらいいですよね。
自家焙煎工房 珈琲豆蔵
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